Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

話題のシューズを見て、改めて思う「ものづくり」に携わる人が向かうべき将来

前回のブログでは「ものづくり」の原点となっている二つの欲求について述べた。
一つ目は、買う側、使う側が求める「便利な暮らしにしたいという欲求」、二つ目は、作る側が求める「良いものを作りたい欲求」だ。

今回は「良いものを作りたい欲求」について、最近巷で話題になっている一つの製品をネタに「ものづくり」を考察してみたい。

年末から年始にかけて開催された駅伝やマラソンで新記録や好記録が連発している要因として話題に上っている厚底シューズ、NIKEのヴェイパーフライについて目や耳にした方も多いだろう。

そもそも私はシューズの専門家でもスポーツの専門家でもないので、細かい構造や機能が分析出来るわけではないが、ソールが3層構造になっていて特殊なクッション素材の間に反発力のあるカーボン素材を挿みこんでいるのがキモ、というような一般的な情報はネット上で確保出来た。

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その他、既にこのシューズについては数えきれないくらいの考察やコメントが出ているが、そのほとんどが使用者側目線のものだ。使用是非も含め賛否両論さまざまあるようだが、半ば「魔法のシューズ」的な取扱いになっていて、このシューズを使えば記録が向上すると分かっているのなら、選手や関係者は使えるものなら使いたいと思うのが自然だろう。既に広く市販されているものなので入手は難しくないようだから。

が、私は作り手側の観点から見てみたい。

今までの常識を疑うところから始まり革命的な新しいものが生まれるのは「ものづくり」ではよくある話だ。このシューズも例外ではないようだ。軽くて薄いシューズが常識となっている中で、敢えて軽さを犠牲にして厚底にすることで性能向上を実現し革命的な製品を世に出したことは、つくづく素晴らしいと感じる。

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この製品はNIKEという巨大企業だからこそ、巨額な研究開発費と極めて優秀なエンジニアを投入して製品化され市場に出された製品であるのは間違いない。しかしそこに至るまでに、今までの常識や既成概念に捉われない発想に基づいたアイデアの起草があったからこそ出来た製品なのだと、私は考える。

ほぼ例外なく「ものづくり」に携わる人間はこだわりが強い。
職人と云えば融通が利かない、頑固一徹のイメージを持つ人も多いだろう。伝統工芸や中小零細のものづくり企業では、より一層そういう傾向が強いだろう。私はそれ自体を決して悪いと思わないし、逆にリスペクトすべき部分でもあると思っているが、やはりそれだけでは将来に向けてのビジョンを描くのは難しい。

私が思うに、NIKEのような巨大企業であろうが、伝統工芸の工房であろうが、中小零細企業であろうが、「ものづくり」の原点は今までの常識や既成概念に捉われない発想に基づいたアイデアの起草であることに違いはないのだ。潤沢な資金や優秀な人材があったところで、現状を打破するような発想やアイデアがないことには何も始まらない。

そういう意味で「良いものを作りたい欲求」を満たすために、その規模や分野に縛られることなく、過去を疑い、現状を疑い、常識を疑い、既成概念を疑うことに、エンジニアや職人の方々の意識が高まって欲しいと切に願う。それが今後の「ものづくり」の衰退に歯止めをかけ、新たな発展の糸口を見出すことになると私は信じているし、この「魔法のシューズ」のような製品が、いろいろな分野で生まれてくる状況に向けて、微力ながら尽力していきたいと思っている。