Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

「縦割り、前例踏襲、既得権益」が「ものづくり」の世界に与えた功罪と、それを打ち破るたった一つの方法

菅内閣が発足して早くも1か月が経過した。
その間に矢継ぎ早に出てきたキーワードがいくつかあったが、今回はその中で「縦割り、前例踏襲、既得権益の打破」に注目してみた

今回、総理自らが敢えて、この「縦割り、前例踏襲、既得権益」というこの3つの言葉を出したのには、コロナ禍への対応によって浮き彫りになった官庁や役所の機能不全があることは想像に難くないが、今更言うまでもなく、長年に亘って日本のあらゆる組織に巣食ってきた悪習、悪癖であることは紛れもない事実である。

f:id:Subrow:20201018185554j:plain

私が本ブログのテーマとしている「ものづくり(製造業)」の業界もご多分にもれず「縦割り、前例踏襲、既得権益(自己保身)」がまだまだ蔓延っている分野だ。

社内の部門間には暗黙のヒエラルキーが歴然と存在し、過去の成功体験ベースの指示や主張しか出来ない幹部が幅を利かせ、自己保身のために「出る杭」を認めずに叩き続ける管理職が存在する、そんな組織もまだまだ多いだろう。

一方で社員の側も、そんな組織の在り方に疑問を持ちつつも抗うことはせず、与えられる業務を従順かつ無難にこなす日々に居心地良さすら感じて生きてきたのだから、クリエイティブな思考が萎んでいくのは必然の状況だったのだと思う。

もちろんそのベースには、高度成長期には最適の運用であった終身雇用、年功序列をベースとした日本独得の雇用/人事制度であったり、同調圧力に弱く横並びが大好きな日本人の気質があるのも間違いない。

生活を維持するために、特に楽しくもないし適性があるとも思えない仕事でも、定年まで平穏に過ごしていくことを標準的な生き方とする人たちを量産してきたのだ。

そもそもそんな環境ではイノベーションなど生まれるはずもなく、第4次産業革命に乗り遅れるのも当たり前だったのだ。

そんな構図で日本の製造業は衰退の道を辿ってきたのだ。

f:id:Subrow:20201018185744j:plain

とは言えども、日本には、過去もそして現在も、優秀かつ有能なエンジニアや職工が非常に多くいるはずだ。

しかし、この「縦割り、前例踏襲、既得権益(自己保身)」によって、彼らが持てるポテンシャルを十分に発揮出来難い環境が作られているだけだと私は考えている。

私の経験談も含めて3つの悪例を書いておきたい。

・いくら良いアイデアを出しても上長に門前払いを受け続ければ、そのうち出さなくなる

・他部門との連携案を提示しても、それぞれの部門が自前の事情ばかりを優先する組織風土では全体最適化は進まない

・先輩たちと雑談しながらスキルやノウハウや知識を得る機会がなければ、エンジニアや職工としての人間の幅は広がらない

これらは典型例として挙げたものだが、日本の製造業ではこういう状況がそこら中に見受けられるのではないだろうか。

もしかしたら、既にそれが当たり前と思っている若いエンジニアや職工も多いのではないだろうか。

私は、このような状況から生まれるエンジニアや職工のモチベーション低下や「事なかれ主義」へのマインド偏向が、日本の「ものづくり」を衰退させてきた大きな要因の一つと考えている。

そしてその根っこには、企業としてコストと効率と生産性を追求し続けなければならない、つまり企業として余裕がない状態がバブル崩壊以降続いてきたことがあるのは間違いない。

一方で、1990年代から始まった第4次産業革命は、アメリカを中心とした欧米諸国を起点にして、産・官・学が同じベクトルに向かって人材育成、研究、設備などへの投資に注力したことで進化、発展してきた。

そしてその結果、AmazonApple、Alphabet(Google)、Facebookマイクロソフトを中心としたBig Techと呼ばれる、現代の情報技術産業をリーディングする企業群が生まれ育ってきたのだ。

しかし残念ながら、日本にはそれらに太刀打ちできる企業は今のところ皆無だ。

私はその最も大きな原因は、企業や組織が「個」を活かすことをあまりにも疎かにし過ぎてきたことだと思う。

聖徳太子が17条憲法で書いた「和を以て貴しとなす」という言葉があるが、これには二通りの解釈があることをご存じの方も多いと思う。

一つは「みんな仲良く争わないのが最も良い」、もう一つは「しっかり議論しなさい」なのだが、近代の日本では前者の解釈が主流となりそれが「事なかれ主義」へと移行していると感じる。

しかし私は、後者の意味こそがこれからの「ものづくり」の世界に必要だと思う。

f:id:Subrow:20201018190032j:plain

豊富な経験を持つ人、新しく斬新なアイデアを持つ人、全く分野違いでも関心の深い人など、いろんな人たちが集まって、組織の制約やシガラミに捉われず自由闊達に議論する場がイノベーション創出につながると思う。

そしてそれが企業という組織の中で出来ないのであれば、有志でそれが出来る場を作ればよい。

第4次産業革命に完全に乗り遅れ「ものづくり後進国」と揶揄される日本がそのGAPを埋めるのはそう簡単なことではないが、「個」を融合させてポテンシャルを発揮し、少しずつでも世界に近づけるような場が作れれば嬉しい限りである。