Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

高度成長期に創業したものづくり企業の二代目経営者が陥りがちな呪縛とは

京都の伝統工芸と云えば創業数百年は当たり前、明治創業なんて伝統工芸には数えてもらえないような、そんな世界だ。しかし京都発祥で昭和創業のものづくり企業が、ITや自動車、電機など多くのカテゴリーで世界を席巻しているのも事実。売上1兆円を超える京セラ、日本電産村田製作所の3社、その他にもOMRON、ローム、ワコールなどなどが著名なところだ。

これらはいずれもカリスマ創業者が一代で巨大な企業規模を作り上げた企業だ。
そのほとんどが既に創業者から二代目、三代目に経営が承継されており、世襲の場合もそうでない場合もあるが、概ね継承はうまくいっているといえるだろう。

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中小零細ものづくり企業の課題

一方で、中小零細ものづくり企業の事業承継は非常に厳しい状況のようだ。
私は仕事上及びプライベート含め、高度成長期に親の立ち上げたその種の企業を世襲で継承している人、すなわち二代目経営者を何人か知っている。その人たちからよく聞こえてくるのは、いろいろな意味で創業者である先代の呪縛をなかなか取り払えない、という主旨の話である。もちろん先代が存命であればその威光に影響を受けるのは判るし、他界されていても基盤の部分を変えることがなかなか難しいようである。

今までその人たちと話した内容を振り返りながら、メーカーエンジニア視点でその呪縛について考えてみた。

云うまでもないかもしれないが、ものづくりビジネスは客が欲しいと思うものを作ることが大前提である。先代の築いた事業及び製品は、その時代にそれを必要とする客がいたからこそ成立したし、成長もしてきた。それは先代がそれに合う技術と嗅覚と運を持っていたからに他ならない。だが、時代が移るに連れ求められるものが変わるのが世の常である。テレビがブラウン管から液晶に変わったように、自動車がガソリンから電気に変わろうとしているように。

ものが売れない時代への移行と対応のスピード感

しかし彼らの親が創業し業績を伸ばした高度成長期は、人口増加と相まって大量にものが売れた時代。すなわち、ひとつふたつの優れた製品があれば、それなりにビジネスが成立した時代だ。しかし今や、人口が減少するのにニーズは多様化し、加えてシェアビジネスやネットでの個人間売買が普及、拡大してきて消費者の購買行動が大きく変化した。トヨタ豊田章男社長が躍起になって、車を売ることからモビリティサービスへのシフトを急いでいるように、ものが売れない、所有しない時代が到来しつつあるのである。

つまり、ものを作り、売って、事業を継続してきた企業にとって、先代の系譜をそのまま受け継ぐだけだと、遅かれ早かれジリ貧になるのは間違いない。しかし中小零細の資本力、技術、人や設備などのリソースでは大きな事業転換が容易ではないのも理解できる。

しかし私から言わせれば、自分たちで「ものづくりしか能がない」と決め込んでいる。そのマインドが誇りでもあるのだが、一方で最大の課題であり呪縛だと思う。親が築いたものを大切にしたい、長年取引のある客に不義理は出来ない、その気持ちは十分に判るが、そこに固執し過ぎて事業を潰しては元も子もないのだから、マインドの切替えをスピード感を持って少しでも早くやった方がいいだろう。

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イノベーション」の捉え方

イノベーション」という言葉が一般的に使われ出して久しいが、彼らにとってそんな容易なものでないことも承知している。しかし敢えてそこに踏み込んで欲しい。なぜなら、彼らの持つ技術やノウハウこそ価値を生むための「イノベーション」が活かせる部分であり、「ものづくり」という領域を超えた新たな「イノベーション」が必ずあるはずだ。

そもそも製品は成果物=売り物なのだから、見て、買われて、使われることで価値が評価される。しかし、製品が出来るまでの技術やノウハウは、購買者側から見えるものではないし価値を評価するのも難しいが、その技術やノウハウこそが売り物になることに気付けていないことも多そうだ。

時代の流れに沿うには、先代が築いた形(製品)ではなく、ポリシー(気持ち)を承継することに切り替えることが必要な時代だ。繰り返しになるが、前述の豊田章男社長の考えを代弁するなら「安全、快適に人やものを輸送する手段をビジネスとして提供する」ことだと思うし、近未来のその手段がモビリティサービスだと言っているのだ。「トヨタの規模など比較にもならない」と卑屈にならず、中小零細ものづくり企業もこういう観点で活路を見出して欲しい。

私も微力ながら、そんな課題を抱えた事業者の方の「イノベーション」のお手伝いが出来ればと考えているのだ。