Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

改めてコロナ禍によって見えてきた日本の「ものづくり」が向かうべき方向性 3

f:id:Subrow:20200906205306j:plain

このコロナ禍によって入手出来なくなって困ったものといえば、ほとんどの人はマスクと答えるだろう。

一時期はどこを探しても見当たらない状態が続いていたが、ようやく落ち着きを取り戻し、供給も安定しているようだ。品薄に耐えかねてお手製のマスクを作った方も多く、また異業種からの参入や素材の多様化もあって、今後もそれほど需給がひっ迫することはないかもしれない。

With コロナの時代となり今や生活必需品となったマスクだが、コロナ禍前においてはおよそ80%程度が中国からの輸入品だったようだ。

その多くが日本メーカーの現地法人、または現地企業への委託による生産で、品質や工程管理(特に衛生面)はしっかりと指導、監督されていたそうだが、当然ながら一気の需要増加に即応出来る体制にはなっておらず品薄を招いた格好だ。

もっとも今回の場合、ウィルスの起源が日本の10倍以上の人口を抱える中国であり、現地で生産しているマスクが現地需要に回るのは当然で、日本に入ってくる余地などないのは自明の理だ。

今回は、この問題を代表例として様々な製造業におけるサプライチェーンの問題点が浮き彫りになった。

他にも、部品が届かず生産ラインを止めざるを得なくなった家電や自動車、建材や部材が届かず工事が止まった建設業など、中国からの輸入に頼っている業界のトラブルは多くあったはずだ。

では、何故このようなサプライチェーンになってしまったのか。

それは言うまでもなく、ほとんどの製造業がコスト最優先を追い掛けた、いや追い掛けざるを得なくなった結果であり、生産拠点を海外に移転したり、または海外企業からの調達が主流になったことが大きいのである。

これは、前にも述べたように国内のデフレスパイラルを先導した要因でもあり、このマスクの問題が製造業や国民の意識に一石を投じてくれるといいのだが。

そもそも、こういうグローバルサプライチェーンは世界が平和であることが大前提で成立するものだ。
コロナ禍はウィルスとの戦いではあったが、世界中の人とものの動きが止まったことで製造業が滞り、それによって消費者が多大な影響を受けた。

しかし今回幸いだったのは敵がウィルスであり、世界中が一致協力してワクチンや治療薬の開発によって制御が可能になりそうなことだ。これが物理的な国家間の戦争であれば、たちまち素材や部品だけでなく、我々が日常的に使用している生活必需品や加工食品など、多くの品物が入手出来なくなることも十分にあり得るのだ。

そう思うと今回のコロナ禍が浮き彫りにしてくれた日本の「ものづくり」の問題を改めて考え、是正していかなければならない機会だと思う。

繰り返しになるが、デフレ化の日本においては、価格が安いことを最優先とするマインドが長年に亘って染みついてきた。品質や信頼性に多少の問題があると判っていても、中国を中心とした海外で生産され、調達された安価なものを選んできたのだ。

しかし今回、不織布マスクは入手できなくなり価格は暴騰した。
コロナ前に1枚10円程度で販売されていた不織布マスクは、今でも昨年レベルの価格には戻り切っていない。いまだに国内生産品は店頭ではほとんど見かけないし、中国製のものでも昨年の2~3倍程度の価格で並んでいる。

一方で一時期、低俗なデマによって品薄になったトイレットペーパーやキッチンペーパーはほとんどが国内生産であり、物流網の問題が解消されたことですぐに鎮静化し価格も元に戻った。

この2つのケースを見ても、せめて生活必需品だけでも国内で生産し供給出来る環境を整えることが、我々の生活にとって非常に重要なのはお判りいただけるだろう。

もちろん戦争は絶対にあってはならないことではあるが、想定外の要因でグローバルサプライチェーンが寸断される状況が起こり得ることを、いみじくも証明したのが今回のウィルスだ。

こうしたリスクを最小限に抑えるためにも、日本の製造業を国内回帰させ、少なくとも我々が日常的に使用している生活必需品だけでも流通が滞ることのないよう、国内生産に戻して欲しいというのが私の想いであり、切なる願いだ。

そしてそれを実現するためには、価格が安いことを最優先とする消費者のマインドを払拭することが重要かつ難題でもあろう。

もう今は、大量生産/大量消費の思考で低品質/低価格のものを短期間で買い替え消費する時代ではない。少々高価でも高品質な製品を長く使い、自分に必要がなくなれば必要な人に譲渡したりシェアしたりする、いわゆる循環型社会へのシフトが求められている時代だ。

そういう時代だからこそ、国内に生産拠点を回帰することから生産と消費と雇用の循環を復元し、SDG'sの実現に近づくことが出来るのではないだろうか。