Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

「購入する、所有する」という行為の価値観が大きく変わる時代を迎えて

10月も目前となり、巷では増税前の駆け込み需要を狙った商戦が繰り広げられている。
増税前に2%の支出増を避けて買うか、増税後のそれ以上の値下げを狙って買うか、売り手にも買い手にもいろいろと思惑があるようだが、今回は軽減税率の導入やキャッシュレス化の推進などもあって、当面は混乱が避けられないのかもしれない。

そのような中、従来のもの売りビジネスから、サービス提供ビジネスへのシフトが起こっているのはご承知のことと思う。今のところカーシェアリングサービスなどが代表例であろうが、今後は様々なカテゴリーでサービス提供ビジネスが急速に展開されていくであろう。

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ある伝統工芸の匠との出会い

そんな中、私はその流れに全く逆行する「購入する、所有する」が大前提となる「伝統工芸」の世界が、今後も末永く継承されていくためのお手伝いをしたいと考えている。そしてそのために、その分野の匠と呼ばれる人たちとの交流機会を求めて活動している。

私は今春、江戸後期創業の伝統工芸の老舗当主と、とあるイベントを通じて知り合った。

そのイベントは公募で希望者を募り、彼自身の工房や製品を紹介する場だった。然るに私以外にも大勢のギャラリーがいて、当主とマンツーマンで会話する機会はほとんどなかった。

しかしそこで当主が話されていた内容に、私の中にある「職人」のイメージとはかなり違っていたものを感じて、改めて話してみたいと思い、しばらくして再度の面会を申し込んだ。


「伝統工芸」に対する先入観と現実

唐突なお願いにも関わらず当主は快く応じてくれた。
私の経験や「ものづくり」や「伝統工芸」対する思いを聞き、また自身のキャリアや思いも語ってくれた。
「職人としての頑なな部分」と「経営者としてのビジネス感覚」の両方を持ち合わせている人だと感じた。

そしてしばらく話をする中で、当主の口から衝撃的な言葉が出てきた。
「ものを作って、売ってビジネスが成立する時代はもうすぐ終わると思っている」と。

「伝統工芸」の老舗当主なのだから、当然ものづくりにこだわりがあり、次世代に継承すべき伝統もあり、という保守的な考えが最優先だと勝手な先入観を持っていたのだが、実はそうではなかったのだ。

その後、いろいろ話しているうちに彼の原点とも思える一節が出てきた。
「ビジネスとして成立させ続けていかない限りは、伝統の継承も出来ない」
というものだった。

彼は「伝統の継承」と「ビジネスとしての成立」の両立こそが、当主である自らの使命であると捉え、そのために何をすればいいのかを常に考え行動しているのがよく分かる。そして次の展開を見据え「伝統工芸」ならではのサービス提供ビジネスを構想しているそうだ。

現在でも、国内、海外で展示会を開き、デザイン分野の学生との交流機会を設け、もちろんオンライン販売も取り入れ、店舗には外国語対応可能なスタッフを置くなど、時代の変化に柔軟に対応している。
また次世代を担う後継職人にも十分な待遇とモチベーションを与え、志を持って取り組める環境を提供している。

今や、時代の流れに取り残され衰退していく「伝統工芸」も多い中、しっかりと現実を直視して、将来を見据え行動されている当主の姿を見て、自身の活動に大いなる刺激を与えてもらった気がしている。