Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

「ものづくり」の仕事が劇的に変わる過程で「職人」が減った理由とは

私が「ものづくり」を職業として携わり始めた頃は、丁度いろいろなツールやシステムがアナログからデジタルに切り替わる過渡期のど真ん中だった。

ドラフターや三角定規で描いていた図面がCADで描けるようになり、教本や公式集を片手に関数電卓を使ってチマチマやっていた強度や応力の計算、構造解析がコンピュータで出来るようになり、「ものづくり」の仕事が劇的に変わる過程を目の当たりにしてきた時代だ。

そしてそれに携わるエンジニアたちも同様に、アナログからデジタルへの変化適応力を求められた時代なのだが、今回は私がそこで見てきた、いろいろな「ものづくり」に関わる人やツールの変化について書いてみたい。

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まず、「ものづくり」のプロセスにおける「図面を描く」という業務、これはどんな「ものづくり」でも、ほぼ例外なくあるはずだし、伝統工芸などの分野でもそれに類して何か伝わったものあるだろう。しかし今の時代、鉛筆とドラフターと三角定規を使って描いている企業は、あまりないだろう。今では3次元CADが当たり前のように使用され、バーチャルでのモデリングはもちろん、応力や強度の解析まで出来、効率的かつ低コストで設計業務が出来てしまうのだから。

しかし私が見てきた、CADが導入される以前からこれを本職としていたエンジニアたちの中には、CADに対する抵抗感を拭い去れずにドロップアウトしていった人たちもそれなりにいた。当時はCADと云っても今のようにそれほど高度なものでなく、ただ鉛筆がマウスやキーボードに変わっただけ、というイメージだったような気がするのだが。

そんな人たちに共通する、私の中のイメージは「手描き図面職人」だ。

彼らが図面を描いていたのは30年以上前のことで、今でこそその人たちの描いた図面を見る機会はほとんどないが、その技術とセンスには本当に惚れ惚れしたのを鮮明に覚えている。

私自身、手描きで図面を描いた経験も多少はあるのだが、彼らの描いた図面は、投影図や断面図の配置とバランス、線の太さや強弱の使い方、文字の大きさ、バランス、正確性など、至るところに熟練の技が散りばめられていて、一朝一夕に真似出来るレベルでないことだけは確かだった。

そして自分の描いた図面がもとになっていろいろな工程を重ねて製品として仕上がり、ユーザーに渡っていくのを誇りに思っていたに違いない。

しかし残念ながら今は、私の周りにはこんな図面を描ける人は誰もいない、いるはずもない、今となっては必要のない技術でありスキルとなったのだ。

が、彼らは確実にその時代の「ものづくり」に貢献し、微力かもしれないが発展に貢献してきたのだし、その後も違う分野でその経験を活かしているだろう。何故なら彼らは「ものづくり」を本当に好きな人たちだったはずだし、大手製造業には数少なくなった「職人」と呼べる人たちだったからだ。

私はエンジニアとしてのキャリアにおいて、こういった時代の変遷によって変わっていった人、技術、仕組み、ツール、思考など、様々な移り変わりを見て、体感してきた。

そして今後も変わり続けるであろう「ものづくり」とその未来に、今までの経験を活かして少しでも貢献出来れば幸いだ。