Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

第4次産業革命は「伝統工芸」にどの程度インパクトがあるのだろうか

第4次産業革命という言葉が、巷に出始めたのは何時頃だろう。
政府が「日本再興戦略2016」として、IoT、ビッグデータ、AI、ロボット、の4つのキーワードを挙げた頃からだろうか。この第4次産業革命は過去に起こった産業革命に比べて、非常に幅広い分野に影響するもので、故に不確実で予測のつかないことが起こってくると云われている。

私が本ブログでたびたび取り上げている「伝統工芸」という分野は、代々受け継がれた熟練の技を習得した職人によるものづくり、つまりはアナログ的な世界というイメージが強いだろう。そこにデジタルを前面に押し出した、しかも不確実要素の非常に大きな第4次産業革命が、今後この分野にどのように絡んでくるのだろうか。

形式知(知識知)」

一般的な量産品を生産するものづくり企業では、製品を均質かつ効率的に作るために作業工程は極限まで標準化される。そしてその作業工程や手順、ノウハウを判り易く明文化(マニュアル化)して運用される。この明文化されたを知識を形式知(知識知)」と呼ぶ。その結果、マニュアル通りに作業すれば作業者の熟練度に大きく影響を受けることなく製品が出来上がるのである。

量産品を生産するものづくり企業はこれを極めることに長年注力してきた。無論、技能伝承を円滑に行うために「形式知(知識知)」化が進めらてきたわけで、短期間で誰でも一定レベルまでの技能習熟を可能とするために、あらゆる知恵と工夫が重ねられてきた。今後この分野はビッグデータ化どんどん進み、AIがロボットをコントロールして、最適な生産工程を担っていくことになるだろう。

暗黙知

一方で、職人の熟練した技そのものが価値と云える「伝統工芸」など手しごとの分野で、過去の経験をもとに成り立っている主観的な知識のことを暗黙知と呼ぶ。そこは文書化や数値化などという形式的なものが入り込み難い感覚的な世界であり、職人が長い習熟期間をかけて少しずつ会得していくものである。言い方を換えれば、そこは誰にでも簡単にマネできるような領域ではないのであって、本来はそれこそが手しごとでものづくりを行う職人の価値であり、だからこそその製品を買いたいと思わせる部分なのだ。

寿司の話

判り易い例として、この二つを寿司で比較してみたい。
皿に乗ってレーンを流れてくる回転寿司と、カウンターの向こうで職人が握り、下駄に乗って出てくる寿司、まさしく形式知(知識知)」と「暗黙知の典型例ではないだろうか。

ネタの切り方やシャリの炊き方まで標準化され機械的に作られる寿司は、均質で安価なものを提供するために「形式知(知識知)」化を追求している。一方で、職人の経験と感覚と技で握られる寿司は「暗黙知」化の極み。シャリの粒の数までほぼ同じに握れる感覚や、ネタの質や種類によって握り方を微調整するというような熟練の技があってこそ。それがあるから相応の価格での提供が可能だし、それを支払う顧客も満足するのだ。

手しごとの世界の進むべき道

そう考えると、現状で見えている第4次産業革命が「伝統工芸」などの手しごとの分野にもたらすインパクトは、こと「ものづくり」という部分に限定すると、あまりないのかもしれない。まさかこの分野でIoTを導入してスマートファクトリーを目指そうとするところは、そうそうないだろう。

しかし私はITの活用を通じて、往々にして閉鎖的な「伝統工芸」や手しごとの世界を開放的に変えていくことが、ものすごく重要ではないかと感じている。今までつながりのない異分野、異業種とつながることも可能だし、それも世界中のあらゆるところとつながれる。そんなところで生まれる、既存の常識や概念に捉われないイノベーションや化学反応に期待とわくわくが膨らむ。

例えば、西陣織の内装を施したフェラーリがあってもいいのでは、、、とか。

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