Subrow’s Blog

エンジニアとしてのキャリアをベースに「ものづくり」の昔と今、そして未来予想図をこのブログを通じて創っていきます

日本の「ものづくり」とそれを支える「職人」に対する評価について考えてみた

いきなりだが、松下幸之助本田宗一郎盛田昭夫井深大早川徳次、という名前は、ほとんどの皆さんがご存知だろう。云わずと知れた日本近代史における著名な起業家であり経営者だ。

彼らは独創的なアイデアと技術を試行錯誤しながら製品化し、量産化して、世界的な「ものづくり」企業を起こしたことで、社会的な地位と名声を得、後世に名を遺すまでに至った。

しかしその彼ら、実は元をただせば全て「職人」だ。
多かれ少なかれ、現場で油とホコリと汗にまみれて「ものづくり」に真摯に取り組んできた「職人」だった人たちなのだ。

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しかしご存知の通り、こうした先人たちが築いた日本の「ものづくり」は青色吐息の状態だ。
産業のグローバル化によるコスト競争にさらされ、合理化を迫られ、どんどん日本の「ものづくり」が衰退していく。量産の分野でも、コアな部分は「職人」の技術やノウハウにゆだねることもまだまだ多いのだが、それらの継承も難しくなっているのが実情だ。


トヨタの”現場叩き上げ”副社長

皆さんは、トヨタの河合満氏をご存知だろうか。
中学卒業後15歳で入社し、現場一筋55年、トヨタで初めて現場の「職人(自動車会社では”技能職”と呼ばれる)」から副社長になった人だ。彼は副社長になってからも工場に席を置いて執務を行っており、その理由は「現場にいないと勘が鈍る」というものだ。いかにも叩き上げの「職人」あがりの副社長らしい。

しかし私にとって、この河合氏が副社長に就任したことが話題に上ることに対して、非常に残念な思いがある。何故なら「ものづくり」の企業でありながら「職人」が要職に就くことが珍しいということを、この話が端的に表しているからだ。言い換えれば、一般的な「ものづくり」企業における「職人」は、社内ヒエラルキーの下層にいて、そうなれる可能性は非常に少ないということだ。

今の日本の「ものづくり」企業は、経営側に立たないと地位も報酬も上がらないのが一般的だし、どれだけ優秀で才能のある現場の「職人」がいても、その部分の評価だけで地位や報酬が大きく上がることはないのが実情だ。しかし日本の「ものづくり」は、こういう名もない「職人たち」によって支えられてきたといっても過言ではないのだ。


「職人」の社会的地位を上げたい

ドイツにはマイスター制度という「職人」を育成し、その社会的地位を正当に評価する仕組みがある。
しかし今の日本は、量産、伝統工芸、その他の分野も含めて「職人」が高い社会的地位を得るのは非常に難しい社会だ。もちろん社会的地位や報酬だけが全てではないだろうが、それが「職人」のモチベーションになり、また次世代の人材を確保出来るのなら、トヨタのような思考や、ドイツのマイスター制度のような仕組みを、もっと広く日本の社会に取り入れていくべきではないだろうか。そのために私に微力でも何が出来るのか、今後も考え続けていきたい。

トヨタは今、製品を売る事業から、モビリティサービスの提供者へシフトを進めているし、そうなるとGoogleなどのIT系企業と競合になり、社内の構造にも劇的な変化が必要になるだろう。
その一方で「職人」あがりの副社長をおいて長年築き上げてきた「ものづくり」を大切にしていく、そういう姿勢を見せるトヨタには懐の深さ、度量の大きさを感じざるを得ないし、こんな時代だからこそ、絶対にやるべきことなのかもしれないと思う。